ビルのリノベーションを、企画・設計・デザインしたリズムデザインの代表/井手氏にそのコンセプトやリノベーションに対する思いなどを伺いました。


今回の計画は、オーナーからお話をいただいたときに、今ある建物を取り壊して建て替えるか? それとも既存の躯体を生かしながらリノベートするか?そのどちらにするかを考えるところから始まりました。
そこで色々と検討した結果、試算上、新築時にかかる建築費用の約60%のコストでリノベートできることが判明し、またコンクリートの強度を調べたところ、建物を維持していくのに十分な数値が出てきたので、建て替えない選択をオーナーにおすすめしました。
残すのであれば、あと60年は維持したいというオーナーの希望もあり、西方沖地震を経験しても特にこれといった損傷のなかった建物だったけど、念のために耐震診断を行い、現在の基準値をクリアできるだけの耐震補強も今回の改修で実施しました。

コンセプトとしては、まず緑の多い山王公園に隣接しているというロケーションからペット共生型、ということが浮かびました。
外観は白の塗装仕上げ、そして妻壁には板金を張る予定です。これは公園の緑や、秋の紅葉を映し出す感じで、その姿を周辺の景観に溶け込ませることを狙っています。
そしてただ寝に帰ってくるだけの部屋ではなくて、毎日をのびのびと楽しめるような、ゆったりとした空間の確保を考えました。1LDKタイプでも最低47平米以上ありますし、ほとんどのプランにおいて南面のバルコニー側にワイドスパンでLDKを配しました。これはやはりスケルトン状態からのリノベートだからできたことです。
内装は白を基調とした、いたってシンプルなデザイン。
それと、今回は設計期間に1年半いただき、SOHOスタイルや単身用から二人暮らし、ファミリー向けまで、様々なプランを設計することができました。


独立して自身の事務所を構えるまでに2人の建築家の元でアシスタントとして働き、個人住宅や集合住宅・商業施設などの新築物件の設計・デザインに関わりました。「古いものを生かす」というよりも、どちらかというと、いままでに体験したことのないような新しい景色や風景を創る、ということを主に考えていたような気がします。なので、リノベートを手掛けるようになったのは、独立して自身の事務所を構えるようになってからでした。
設計・デザインという仕事柄、独立するなら自分たちが気に入ったスペースで仕事が出来たらいいなと思っていたので、ワークスペースを探す際に、「自由に改装しても良い」しかも「格安」の物件を探しました。その時に、今事務所を構えている古アパートに出会い、当時築50年を超えていた物件の一室を自分達らしくリノベートして入居しました。これがたまたまアパートのオーナーの目にとまり、「清川に別の物件があるからそっちもやってみないか」と声をかけて頂き、若鶴マンションのリノベートに関わることになりました。それが、「リノベート」について真剣に考えるきっかけとなったのです。
そしてそこでの仕事を通して、「全てを新しくつくらなくてもいいんだ」と強く感じました。他の建築事務所よりも建築以外の「モノをつくらない」活動(ディレクションやプロデュースなど)も必死にやってきたせいか、以前にも増して、スクラップ&ビルドを繰り返す既存の建築やデザインの在り方に疑問を感じるようになりました。
「古いから、悪くなったから、壊す」というようなネガティブな発想ではなく、「古いけど、ここが気に入っているから、残す」といった「ポジティブ」な発想が、これからの時代には必要なのかもしれませんね。